『Siege』by Deborah Snow

オーストラリア読書日記
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久しぶりに読み応えのあるノンフィクションに出会いました。

今回読んだのは『Siege』。2014年の年末に起きたシドニーのリンツカフェでの立てこもり事件に追った迫真のドキュメントです。

事件についてご存じない方は2014年シドニー人質立て籠もり事件などを参考にしていただければと思います。

この事件は、オーストラリアを代表するテレビ局『Channel 7』のスタジオのすぐ目の前で展開されたこともあり時々刻々と映像が放映されました。シドニーのど真ん中で起こった事件であるのに加え、私自身も行ったことのある場所で、店内の様子も記憶に新しかったことから、息をのんで展開を見守った記憶があります。

翌朝犠牲になった人質の身元が明らかになった時に、アナウンサーが友人と気づいて生放送で泣き出したのも印象に残っています。

Australia presenter breaks down during Sydney live reporting

本では生還した人質の証言や事件後に行われた査問をもとに、事件の展開と、背後でいかにニューサウスウェールズ州警察の対応がまずかったかが丁寧に説明されていきます。不幸にも犠牲になった2人の人生や、犯人の過去にも迫り、事件の理不尽さが胸に迫ります。

当時、テレビを見ながら何でもっと早く突入しないのか、と疑問に思ったのは私だけではないと思いますが、それに至ったニューサウスウェールズ州警察のかなり信じられないレベルでの経験不足、意思疎通のまずさ、装備の不備、組織の風土などがつぎつぎと暴かれていき、やっと理由が分かりました。

州警察と連邦警察や軍との連携を阻む組織の壁から協力が阻まれた経緯や、早い時期に脱出した人質からの内部の情報が全く生かされなかったのを読むと、救えた命が犠牲になった感があり、残念な気持ちでいっぱいになります。

ただ、ニューサウスウェールズ州警察も現場では一生懸命やっていたわけで、失敗の原因は事件当日以前の準備や経験にあり、それが不幸にも危機に際して露呈してまった形です。

そういう意味で、この本は、警察組織やさらに企業組織一般の日頃の危機管理を考える上でも示唆に満ちています。

おすすめの一冊です。

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